インタビュー&コラム

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ICT活用による“確かな学力”の向上

独立行政法人メディア教育開発センター 理事長
清水 康敬

(2007/06掲載)

 

今、求められる“確かな学力”

 経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査(PISA)」2003年調査国際結果によりますと、我が国の義務教育修了段階15歳児の“読解力”は14位となり、2000年の8位から低下しています。また、“科学的リテラシー”は、フィンランドが第1位で、日本は2000年と同じ第2位を維持。“数学リテラシー”は1位から6位に後退しています。
 また、国際数学理科教育動向調査(TIMSS)の2003年調査の結果では、小学校4年生の理科と中学2年生の数学の成績が有意に低下しています。中学2年生で勉強が楽しいと「強くそう思う」及び「そう思う」と回答した生徒の割合は日本の子どもの場合39%で、国際平均の65%より低い結果です。理科も国際平均が77%であるのに対して我が国の場合は59%です。そのため、学習に関する関心意欲を高めることが我が国の大きな課題です。
 このような結果を招いたのは、いわゆる「ゆとり教育」が原因であるとの指摘もあります。しかし、ゆとり教育の考え方の問題ではなく、その考え方が十分実行できなかったように思います。このことから、文部科学省では確かな学力向上アクションプランによる取り組みなどを推進していますし、スーパーサイエンススクールをはじめとするモデル校で先進的に進めています。
 しかし、我が国全体で考えた確かな学力向上を目指すことが重要です。そのためには、学力向上に関する具体的な方策を示す必要がありますが、その一つがICT活用による学力向上です。

 

ICT活用による学習効果

 文部科学省の調査によれば学校のインフラ整備や教員研修の成果が十分でなく、地域の格差が非常に大きく、二極化が生じています。そのため、学校のICT環境の整備に関する予算化の際に、ICTを活用すれば児童生徒の学力が向上することを具体的に示すことが求められていました。
 そこで、独立行政法人メディア教育開発センターでは、文部科学省の委託を受けて、ICTを活用した授業としない授業を比較しました。その結果、ICT活用した授業を受けた児童生徒の客観テストの結果が高いことが分かりました。児童生徒を対象にした意識調査を行った結果から、ICT活用は児童生徒の関心意欲や知識理解を高めることが分かりました。また、因子分析で抽出された、(1)思考力・表現力、(2)関心・意欲、(3)知識・理解の3つの因子のいずれについても確実に差がある(1%の有意差)ことが分かりました。
このように、ICT活用は学力向上につなげることができます。したがって、学校の情報化が遅れている地域では、この成果を参考にして学校のICT環境の整備を推進していただきたいと願っています。

 

 

情報教育による情報活用能力の育成

 ICTを活用した教育は、教員がICTを活用して教科の指導する場合と、子どもたちの情報活用能力を育成する情報教育があります。ここで重要なことは、見方や指導の仕方を工夫すれば、各教科指導の中で子どもたちの情報活用能力を育成することができることです。
 そこで、文部科学省では、各教科単元の中で情報教育を実施する場合の学習内容を整理して「情報教育に係る学習活動一覧」として2006年8月に公表しました。この学習活動一覧の策定のまとめ役をさせていただきましたが、それを示しただけではなかなか実践につながらないようです。そこで、この学習活動一覧に対応した、教科単元支援ツール「スキップ」がスズキ教育ソフトから発売されています。このような教材を活用していただき、各教科における情報教育が広く行われることを期待しています。

 

必要とされる教員のICT活用指導力

 教育の情報化を推進するためには教員のICT活用指導力の向上が鍵となります。文部科学省では、「コンピュータを使って指導できる教員の実態調査」を実施してきましたが、2006年3月の時点では全国平均で76.8%でした。また、2006年1月に政府から出されましたIT新改革戦略の中で、ICT活用指導力の基準を作成することが目標として書かれました。 それを受けて文部科学省では「教員のICT活用指導力の基準の具体化・明確化に関する検討会」を設けて審議して来ましたが、その基準が2月に公表されました。筆者はその検討会の座長としてまとめさせていただきましたが、この基準の目指した点は以下の通りです。
 まず、すべての教員が修得できる基準であることです。したがって、高度な指導力は今回の基準には含めておりません。また、学校現場や教員に受け入れやすい表現にすることを目指し、日常の授業における指導場面からICT活用を示す表現にしています。その結果、5つの大項目と、18のチェック項目を基準として挙げて、具体的な指導項目を多く列挙しています。ただし、ICT環境が整備されていない地域や学校では実際に基準の項目を評価できにくい面があります。しかし、整備されたとして自己評価をしていただくことになっています。
 今後は、この基準に基づいて教員研修などが行われ、すべての教員が基準で示されたチェック項目のすべてが指導できるようになってほしいと願っています。そして、基準を満たすように、都道府県や市町村レベルでの集合研修、学校レベルの校内研修、個人研修が各地で開催されることを期待しています。
 また、今回は教員にICT活用指導力の目標を示し、またそれを自分で確認するために基準を示しましたので、不足している指導力を学習できるシステムを開発する計画をしています。この場合、ICT活用した指導のためには、ICTスキル(コンピュータやインターネットの操作スキル)も習得する必要があります。したがって、今回の基準と共に示された指導項目それぞれに必要なICTスキルを列挙して、ICT活用指導力とICTスキルを関連付けて習得できるシステム開発の準備をしています。
 なお、今後はさらに先進的な情報インフラが整備されて、教員が使いやすく、教育の効果も高い機器システムが整備されていくと思います。たとえば、インタラクティブな電子黒板などの導入が大いに期待されます。
子どもたちの関心・意欲を高め、より効果的な「わかる授業」を展開していただく為に、各教科で積極的なICT活用を実践していただきたいと願います。

 

清水 康敬 先生 プロフィール

独立行政法人メディア教育開発センター理事長

【略歴】

1940年長野県生まれ。
66年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。71年工学博士(東京工業大学)。72年米国ブルックリン工科大学留学。主に電波吸収体や電磁シールド等の研究、水晶基板を伝搬する弾性表面波の研究、ならびに情報コミュニケーション技術を活用した教育研究に従事。99年文部大臣賞受賞。2000年郵政大臣表彰。現在、独立行政法人メディア教育開発センター理事長。東京工業大学名誉教授。

 

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