授業実践リポート

Interview

「情報モラル」の授業は、「禁止の授業」ではありません。これからの社会を生きるための心構えを育てる授業です。

鳥取県 三朝町立西小学校
田中 靖浩

(2006/10掲載)

 昨年度、「情報モラル」の指導研究委託(文部科学省)を受けた鳥取県三朝町立西小学校では、一年間にわたり「情報モラル」の授業を行ってきた。そして、今年度も、より具体的なテーマに沿って継続研究が行われることになった。
 まだ、全国でも具体的なカリキュラムづくりが進行中の「情報モラル」の授業に関して、いち早く取り組んできた三朝町立西小学校の田中靖浩先生に、学校現場の今をお聞きした。

―――「情報モラル」の授業を行うに際して、昨年度は、どのようなアプローチを行ってきたのでしょうか?

田中 まず、目的は、あくまでも授業開発であることから、既存の教材を使わないことを取り決めました。既存の教材を利用していたのでは、研究の意味がありませんから当然なのですが、実際にカリキュラムを組む作業が難しかったです。
 また、昨年度は、指針が見えにくかったこともあり手探りの状態でしたが、本年度の継続研究では、テーマが与えられて、より具体的な授業が展開できると思います。(取材時は、テーマ未定)
 授業は、「総合的な学習の時間」を活用しました。週3回ある「総合的な学習の時間」のうち、1回を英語活動にあて、残る2回を情報教育を基盤とした各学年のテーマ学習に関する授業に割り当て、その中で「情報モラル」を指導してきました。
 「情報モラル」の学習は、どの学年においても急務であると感じています。ですから、1年生でも、少しずつやるべきであると考えています。あるテーマについて、それを高学年で実施した後、低学年では 内容を砕いて展開したこともあります。
 実感として、とにかくどの学年でも、「情報モラル」の学習は、急がなければいけない、という思いです。それは、子どもたちは、日々、情報と接していて、そこから隔離することはすでに困難であるからです。
 私の役割としては、「情報モラル」の学習を、いかに子どもたちの生活につなげて理解させていくかを考えることであると思っています。そのためには、ただ単にテーマに合った教材を授業の中で提示するだけでは、意味がありません。それは、とても安易な方法です。教材は、目的が明確であることから、それを正確に提示することができるでしょう。しかし、それだけでは、実際の授業は成り立ちません。
 大事なことは、「情報モラル」という事柄を子どもたちの毎日の生活に生かせるようにすることなのです。そう考えると、子どもたちの様子に合わせた授業を構築して展開することが必要になってきます。つまり、子どもたち自身が、授業のテーマを正しく理解して、自分の生活との関連性について意識してくれるような授業でなくてはいけないのです。そして、そのためには、教える側が、常に普段の子どもたちに接していることが、本当はとても大切なことなのです。

 

 

 

―――6年A組「ネット依存」の授業を見学させていただきました。第一感として、とても丁寧で、しかも、子どもたちひとりひとりの普段の生活にストレートにアプローチしているという印象を受けました。
「情報モラル」あるいは「ネット依存」などというテーマの授業になると、どうしても「禁止事項」を強制的に指導するというようなイメージを抱いてしまうのですが、先生の授業は、それとはまったく逆で、どのようにすればネット社会を上手く生きていけるか、ということを子どもたちにしっかり伝えようとする姿勢がはっきりとわかりました。非常に「前向きな授業」という感想を持ちました。

田中 「情報モラル」の授業だからといって、ただルールを直接教えるだけでは、子どもたちには届かないのです。これは、他の教科でも同じですが、子どもたちへの問いかけや気づきを与えることによって、子どもたち自身が積極的に自分と向き合うことが大切なのです。
 教材を流すだけの授業では、子どもたちは、そのテーマを実感することが難しいと思います。そこで、教材の必要な部分を提示します。全部を見せる必要はないと思います。必要な部分だけを見せて、子どもたちに問いかけるわけです。そして、気づいたことを発表させます。発表するには、自分で考えなくてはいけません。
 今回の「ネット依存」であれば、『自分でやめる』『家の人の力を借りてやめる』『家の人に常に見ていてもらう』『インターネットをやる時は、居間で家族と一緒に』というような考えが思いつき、発表につながります。そうすると、それは、『約束をする、ということだね』あるいは『ルールづくりだね』ということに発展します。けれど、結局、ルールをつくっても、それを守るのは自分自身であって、そのためには自分をコントロールする力が必要になるね、というように問いかけることへとつながります。
 今回は、その後、プリントに感想を書かせました。果たして自分は、どうだろうか?という自分自身への問いかけをプリントに記述することで、自分の思いを再確認して終了しました。

 

 

―――今回の授業では、最終的に「正しい答え」は、導かれていませんね。

田中 はい。それは、答えが、ひとつではないからです。
 「情報モラル」の授業の考え方はシンプルです。それは、原因があるから結果がある、というものです。この構図を明確にするために、教材コンテンツは役立ちます。
 本校では、「ノーテレビデイ」という自宅でテレビを見ない日を推奨しています。今回の授業は、インターネットに長時間接することによって起こる弊害がテーマでした。これは、テレビ視聴にも共通するものです。ですから、子どもたちは、「ネット依存」だけでなく、「依存」へとつながる 原因そのものについて、自分の生活やテレビ視聴と関連させながら学習することができたと思います。
 このように、「情報モラル」の学習は、子どもたちの生活とつなぐことでよりよい理解が進展すると思います。そして、これには、家庭もかかわってきます。大事なことは、子どもたちが、感じたことを表現できる力を備えることです。ですから、答えはひとつではないし、ひとつの答えを導き出す必要もないのです。
 「情報モラル」の授業は、『禁止の授業』ではありません。ネット社会と共存するための心構えを育てる授業です。

 

―――「ネット依存」の授業の中で、〈あんしん・あんぜん 情報モラル〉をお使いいただきました。
これは、単独の製品としても発売していますが、〈キューブきっず2〉にも同梱されています。

田中 〈あんしん・あんぜん 情報モラル〉に関して言えば、20以上のコンテンツに分かれ細分化されていることで、ひとつのテーマを1時間の授業の中で行うのに適していると思います。この教材を軸に年間カリキュラムを作成するのもいいのではないでしょうか。
 〈キューブきっず2〉は、以前のバージョンから使っているので、子どもたちは、すでに操作にも慣れています。5年生では、ちょうど「音楽会のポスター」づくりを〈キューブきっず2〉の「キューブページ」や「キューブペイント」で行っています。作品づくりになると、華美な装飾に着目しがちですが、目的をしっかり伝えることを最優先に取り組んでいます。     
 また、作品をPDFファイルに書き出すことができる機能は大変便利です。子どもたちの作品を管理しやすくなったのを実感しています。

 

―――最後に、この先、「情報モラル」の授業が、どのように発展すると思われますか?

田中  本校では、1年間、「情報モラル」の授業を行ってきたことで、普段の中で子どもたちがお互いにそれを意識するようになってきているのを実感します。
 例えば、縦割り班の活動でそれぞれの旗をつくる際など、『このマーク、勝手に使ったらダメだよね』ということが、子どもたちの間で話されるようになったのは、大きな成果です。こうした場面を見るにあたり、子どもたちが生活の中で『これっていいの?』という疑問を持ち始めているのを感じます。それまで知らなかったことに気づきを持って接することで、新しい視点を持たせることができたのだと思います。
 今後は、まず、しっかりとしたカリキュラムをつくることが必要です。そうすれば、子どもと常に接している担任の先生が「情報モラル」の授業を行うことができるようになるでしょう。それによって、これまで以上に子どもたちの日常生活に密着した授業が実現できると思います。
 また、家庭との連携も深めていきたいと思います。 それは、「情報モラル」の学習では、大人が子どもの心の育ちを見守りながら、日々支えていくことが必要だからです。今年度の継続研究の中で、今後の方向性を見極めていきたいと考えています。

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