たくさんの小学生が挑戦している全国小学生キーボード検定サイト「キーボー島アドベンチャー(以下キーボー島)」。2003年にオープンしてから今年で19年目となります。GIGAスクール構想による1人1台端末の導入でますます利用者が増えている今、あらためて開発の経緯や誕生秘話にせまります!
「キーボー島」のしくみ
「キーボー島」は、全国の小学生を対象にスズキ教育ソフトが無償で提供しているキーボード検定サイトです。先生が申し込むと児童それぞれに個別のID・パスワードが発行されるので、子どもたちは自分専用のIDでログインして利用します。キーボー島の地図の上には30個の赤い丸印があり、30級から1級までのチャレンジステージを示しています。30級はひらがな1文字(あ行)の入力、20級はひらがなの単語入力、14級は漢字まじりの短文入力のように、級が進むにつれてより高いスキルが要求されます。1級をクリアした子どもたちは、「1回の授業時間中に800文字以上の文章を無理なく入力できる」ようになっているはずです。それぞれの級にチャレンジしようとすると、キーボー島に住む島民(キャラクター)が登場します。子どもたちは島民との試合に勝つことで進級していきます。1級がクリアできた児童はさらにその上の初段に挑戦することができます。初段をクリアした児童には「名誉島民」の称号が与えられます。
「キーボー島」誕生のきっかけ
「キーボード入力は、経験のなかに埋め込んで指導すればいいんです」という当時の情報教育の常識に対する問いが、キーボー島開発に向けた研究がスタートするきっかけでした。2002年度より総合的な学習の時間が実施され、そこでは自分たちで調べたことを工夫してまとめ、プレゼンテーションやWebページなどを通して発信するという活動がおこなわれていましたが、そこに立ちはだかっていたのが子どもたちのキーボード入力のスキルに大きな差があるという課題でした。キーボード入力のスキルが高い子どもたちは短い時間で入力を完了させ、内容の質を高めることに時間を割くことができる一方で、キーボード入力がおぼつかない子どもたちは、とにかく入力することに時間がかかり、肝心な学習内容を理解できないという状況だったのです。つまり、キーボード入力スキルの差が、学習活動の質を左右していたのです。そして①キーボード入力は能力ではなく経験値であり、繰り返し練習が必要であること ②学校ではキーボード入力の学習指導に割く時間が十分にとれないこと ③教える内容には順番があること というそれまでのキーボード入力の指導から得られた知見を踏まえ「学習支援システムとして構築し普及させる」ことを目的として研究が進められました。小学生がキーボード入力を楽しみながら練習し、そのスキルを高めたいーーー「キーボー島」はこのような願いから企画が本格化し、静岡大学情報学部 堀田研究室(開発当時)・モニター19校・スズキ教育ソフトによって開発が進められました。
企画・開発段階からサイトがオープンした後を含め、「キーボー島」が関わるさまざまな研究がなされており、今日まで多くの学術論文が発表されています。
制作担当者に聞いた「キーボー島」誕生秘話
1番苦労したのは?
地図つまりキーボー島のビジュアル化です。「30くらいのステップに分けてキーボード入力の練習をさせたい」というのが基本コンセプトですが、開発に携わった現場の先生方からは「ファンタジーのような」「ゲーム性を持たせて」といった要望がありました。制作する私たちも「楽しいものを楽しく作りたかった」わけで、気持ちも盛り上がりました。でも、どうすればいいか。アドベンチャーしたくなる世界、そして、自分の到達点が確認できる地図を検討。「宇宙を舞台に」「時代劇風にする」「ただの道でいいのでは?」などなどありましたが、「時代に取り残された中世的な孤島」のイメージが出来上がった時には、もう「これでできた!」と確信しました。
キャラクターの設定経緯は?
面白さを演出するためには、それぞれのキャラクターがとても大事。動物のイメージをもとにキャラクターを設定していきました(中には、身近なスタッフや監修の先生方をイメージしたものも)。最初の30級のキャラクターは「スリーピースネイル」。寝ぼけたカタツムリで「あー」とか「うー」とか「えー」とかしか言わないとぼけた相手。「あいうえお」の練習をするにはもってこいです。こんな風に、ちょっと気になる愛すべきキャラを目指しました。しかし、今考えると「30級」のカタツムリは寝ぼけているふりで欺く、本当は強いキャラにしたほうが良かったかもしれません。実はこの級は、すべての基本ですものね。
1番苦労したキャラクターは??
「9級」の「ダンディクロコダイル」です。プロフィールは「いつも体をきたえ、男らしさにこだわるワニ」。見た目の強さにこだわり、戦いの本分を忘れた愛すべきナルシストを目指したのですが、社内からは「教育の現場でこのキャラはどうなの?」という声が上がりました。学校で安心して使っていただくことを重んじる立場の意見です。制作担当は動揺しましたが、監修の先生方に「大丈夫だよ」と言っていただいてほっとしました。実は今でも心配です。愛せないキャラクターはいるでしょうか?
イラストの力
キーボー島が楽しいと思っていただけるのなら、それはイラストの力が大きいと思います。キャラクターのイメージを可視化してくれたイラストは素晴らしい想像力のたまものです。「エプロンマウス」や「キューティーピッグ」は紙粘土でフィギュアを作ったスタッフもいました(実は私です笑)。
級のキャラクターの一覧は、キーボー島アドベンチャーのサイト内にある「印刷アイテム」から印刷できます。
監修の先生方と
現場の先生方の意見を大事に、使ってもらえるコンテンツにしたいとプロジェクト会議は回数を重ねました。スタッフは言葉を尽くしてアイデアを説明するのですが「それではつまらない」と厳しいダメ出し。そこでまた頭をひねりプロトタイプを制作し会議にかけます。「こういうのが見たかった。いいね。」と言っていただけたときは本当に嬉しかったです。先生方も妥協せず、こちらもできることを追求しました。大事なことだったと思います。
「キーボー島」登録学習者数の推移
最後に、登録学習者数の推移を見てみましょう。しばらく横ばいが続いていましたが、2020年度・2021年度と急速に登録学習者数が増えています。2021年度は85万人以上の児童にご利用いただきました。今年度は、9月末の時点で約78万6千人が利用しています。もしかすると過去最大の登録学習者数が記録されるかもしれません。今年度からフルクラウドでのシステム運用となった「キーボー島」どうぞ引き続きご利用ください!
登録学習者数についてなど、キーボー島の活用実績は、以下URLで確認できます。
http://kb-kentei.net/main/07_use_state.html
開発当時、静岡大学情報学部・助教授としてプロジェクトリーダーを務めていただいた、堀田先生にコメントをいただきました!
「キーボー島」の登録学習者数は2020年度・2021年度に急増しました。GIGAスクール構想の実現によってキーボード入力の必要性が再確認されたためでしょう。実際、「キーボー島」で身に付けたキーボード入力のスキルを学習場面で発揮している児童が全国にたくさんいます。
今後、全国学力・学習状況調査がオンライン(CBT)化していきますので、キーボード入力のスキルの差が学力調査の結果の差につながることになるでしょう。長年の安定運用の実績がある「キーボー島」に学校全体でしっかり取り組んでいただければと思います。
堀田龍也,博士(工学)
東北大学大学院情報科学研究科・教授,東京学芸大学大学院教育学研究科・教授