沖島小学校の日常
近江八幡市内の漁港から通船で10分
港から学校まで給食の材料を運ぶ子どもたち
沖島には車が通っていない。静かで、耳を澄ますと鳥の声や船のエンジン音などが聞こえてくるような、ゆったりとした雰囲気の場所だ。小学校に在籍する19名の児童のうち、島外から通学している17名は、通船を利用して学校に通っている。学校給食の材料は、業者によって、対岸の堀切港まで運ばれてくる。堀切港から学校まで運ぶのは、子どもたちの仕事だ。毎朝、子どもたちが交代で台車を押す姿は、おなじみの光景である。
地域の力を借りて、豊かな学びを
遠泳会の様子
パッケージのイラストは児童一人ひとりが描いたもの。琵琶湖に関係する多種多様な生き物が描かれている
「びわ湖フローティングスクール」の学習船
旗振りをする様子
沖島小学校は、地域との絆が深い。子どもたちは島民の協力や心のつながりに支えられながら、様々なことにチャレンジしている。
その一つは、琵琶湖の沖合で行う遠泳会である。沖島の主な産業は漁業で、多くの家庭が船を所有しているため、遠泳会当日は地域の方が漁船を沖に出してくれる。先生方は泳ぐ子どもたちの補助に加えて、その漁船に乗って、湖上から見守る体制をつくることができるのだ。この日のために練習を重ねてきた子どもたちにとって、実際に琵琶湖で泳ぎ切ることができた時の喜びはひとしおだ。今では「沖島と言えば遠泳」というほど伝統的な学校行事だが、地域の方のサポートなしでは、こうした機会をつくることは難しいという。
沖島では漁業に加えて、自宅の庭の畑などで農作物の栽培を行っている家庭も多いという。昨年児童は、島で栽培されているサツマイモを使った、特産品開発に取り組んだ ※ 。その名も「沖島のやさしいアイス」だ。ネーミングの由来は、沖島の良いところについて話し合いをした際、子どもたちの中から「沖島の人はみんなやさしい」という意見が多く出たことによる。「島の人のやさしさ」は子どもたちの自慢なのだ。その想いを形にしようと、材料や味選び、パッケージデザインなど、一生懸命に商品化の話し合いを進めた。その様子を見守って来た教頭の白嵜治先生は、「企画から販売まで、すべてが子どもたちの意見で出来上がっています」と話し、開発体験が充実したものであったことがうかがえる。今年以降は島民のサツマイモ栽培に協力する形で継続的に関わっていくという。
教育活動以外にも、沖島小学校ならではの恒例行事がある。「びわ湖フローティングスクール」での"旗振り"だ。「びわ湖フローティングスクール」は、滋賀県内のすべての小学5年生が、学習船「うみのこ」に複数校で乗船し、1泊2日で湖上を巡り、船内や寄港地での活動を通して学ぶ事業。その航路にある沖島小学校では、児童が旗を振って迎え、船に乗った大勢の子どもたちも手を振り返して応えるという。沖島小学校の5年生が乗った船への"旗振り"は特ににぎやかで、在校生や児童の保護者をはじめ、島民総出で出迎えることもあるそうだ。一緒に乗っている他校の児童や先生が、心温まる光景に感動し、涙を流すこともあるという。こうした光景も、島と一体となった沖島小学校ならではである。
※離島振興事業の取り組みの一つとして、企業などと連携しながら、ワークショップ形式で行われた。
店頭販売では目標を大きく上回る600個の売り上げを達成。
子どもたちの自信を育む活動
県内外の学校と和太鼓を通じて交流の機会をもっている
23年前から取り組んでいる「沖島太鼓」は子どもたちの誇りだ。週一回の全校練習を一年間積み重ね、学校行事や島のお祭りなどで披露する。島に暮らす女性は、「子どもたちの太鼓に元気をもらいます」と話す。
また、太鼓を通じた交流も盛んで、昨年は県内の小規模校と太鼓の演奏を披露し合い、他校の児童の力強い演奏に衝撃を受けたそうだ。そのため、今年の練習は特に熱が入っており、毎週の練習を楽しみにしている児童も多いのだという。太鼓を通じて成長できることが、子どもたちの自信にもつながっている。
校長 佐野 淳子 先生
教頭 白嵜 治 先生
校長の佐野淳子先生は、「沖島には中学校がないため、小学校を卒業すると子どもたちは島の外で学校生活を送ることになります。次のステージでも自分らしくがんばっていけるよう、授業はもちろん、様々な活動を通して自信をつけられるよう後押しをしていきたいです」と語る。沖島小学校の子どもたちは、島の自然と人々が作り出すあたたかな雰囲気の中で、豊かな体験を積み重ねながら成長していく。