わが校自慢

Jiman

茶所ならではの体験活動を通して
地域への感謝の心を育み、達成感を味わう

静岡県 牧之原市菊川市学校組合立牧之原中学校

「すばらしい校舎」、「めずらしい施設」、「ユニークな活動」など・・・。
そんな"わが校自慢"をレポートするコーナー。
第10回目は、静岡県にある、牧之原市菊川市学校組合立牧之原中学校の「学校茶園」を通した体験活動を取材しました。牧之原中学校が校区とするのは、大井川の南西部に広がる台地「牧ノ原」。日本有数の茶所の中学生たちは、「お茶」を通して学びます。

2017/07掲載
※ご所属先は、取材当時のものです。

茶摘みの風景の中に、ひときわ目立つのは「茶娘・茶息子」衣装を身に付けた牧之原中学校の3年生たち。衣装は、中学校3年生だけが着ることを許される。この地域の子どもたちの「憧れ」である

グラウンドの隣にある広さ624m²の学校茶園

地域に支えられ、開校当時から続く学校茶園の取り組み

校長 永田 初穂 先生

教頭 大塚 昭彦 先生

 牧之原市菊川市学校組合立牧之原中学校には、昭和22年の開校当時から「学校茶園」がある。お茶の生産地として発展してきた台地「牧ノ原」に位置する中学校として、生徒たちにもお茶に関する体験をさせたいとの思いがあったという。毎年八十八夜を迎える頃、茶摘みが行われる。地域の方も、毎年風物詩として楽しみにしてくださっているそうだ。
 「学校で何か取り組みをしようと思ったら、学校が主体となって行うイメージがあると思います。しかし、本校ではありがたいことに地域の方々も積極的に関わってくださっています」と校長の永田初穂先生。茶園の管理や茶摘みのバックアップのみならず、摘んだ後のお茶の葉の製茶も地域の農家の方が無償で引き受けてくださっているそうだ。一度は、農家の方の負担を考え、協力のお願いをするのをやめようと考えたこともあったそうだが、農家の方からは「子どもたちが手摘みする少しのお茶の葉をおいしく仕上げるというのも、毎年私たちが勝負しているところなんです」という言葉が返ってきたという。
 「この地域は、自然とお互いに支え合える土地柄なのだと思います」と永田校長先生。現在の中学校がある土地も、かつては地域住民の手によって開墾された土地だという。地域で助け合う雰囲気が連綿と受け継がれているのだ。教頭の大塚昭彦先生は、「この活動は、地域の方々の協力なくしては成り立ちません。生徒たちには、地域への感謝の気持ちを忘れずに持ってもらいたいと考えています」と活動に込めた思いを語る。

「学校茶園は伝統」茶娘・茶息子姿でお茶を摘むということ

開会式でお茶の摘み方を説明する生徒たち

葉が開いていない「芯」とその下の葉2枚分までを摘み取る。「一芯二葉」と呼ばれる摘み方だ

 初夏の日差しが眩しい5月の朝。牧之原中学校の生徒74名や先生方を始め、小学生児童、保育園児、地域の方がグラウンドに集まった。年に1度のお茶摘みの日だ。
 はじめに、開会式で牧之原中学校の環境委員の生徒からお茶の摘み方に関する説明があった。参加者の中には初めて参加する保育園児や、まだ茶摘みに慣れていない人たちもいるため、どんな人にも分かりやすいよう、担当の生徒が図を示しながら説明した。
 参加者の士気が高まってきたところで、全員で学校茶園に移動。いよいよ茶摘みが始まる。幼いころから毎年茶摘みをしてきた生徒たちの手つきは慣れたもので、たくさんあるお茶の葉の中から素早く新芽を選んで摘み取っていく。
 「一生懸命取り組む生徒たちです」という永田校長先生の言葉の通り、生徒たちはわきあいあいとした雰囲気で作業しながらも、決して手を止めず茶摘みを行っていた。3年生の学級委員の生徒たちに話を聞くと「放課後を使ってお茶の木の蜘蛛の巣を取ったり、肥料を撒いたりしてきました」「学校茶園は牧之原中学校の伝統なので、責任感を持って取り組んでいます」と自信をもって語ってくれた。茶娘・茶息子姿でお茶を摘むことは、この地域の子どもたちの「憧れ」であると同時に、それだけの責任と使命を背負っているのだ。生徒たちは午前中いっぱいをかけて、160kgを超えるお茶を摘み取った。

ランチルームで全員そろって給食

皆で給食を食べながらお茶摘みの労をねぎらう

摘み取ったばかりのお茶の葉の天ぷらが提供される

 牧之原中学校のもう一つの自慢はランチルームだ。広いランチルームに先生も含め全校生徒が集まり、一斉に給食を食べる。茶摘みの当日には、摘み取ったばかりのお茶の葉の天ぷらが給食のメニューに加わるのが恒例だ。「自校給食なので、すぐに調理して当日の給食で味わえるのがいいところです。他にも梅や学級菜園で育てた野菜など、学校の敷地内で採れた食材が使われることもあるんですよ」と永田校長先生。食育にも一役買っているという。
 嫌いなものも残さず食べるきまりで、これまでの残食はゼロだという。牧之原中学校に入学して、好き嫌いがなくなる子も大勢いるそうだ。

年間を通して、お茶に関わり学ぶ

学校の近くにある東名高速道路のSAでの呈茶・販売体験の様子(写真は昨年のもの)

 茶摘みだけでは終わらないのが、牧之原中学校の学びの特徴だ。生徒たちは1年間を通して、お茶に関わる活動をしていく。摘み取ったお茶の葉は、地域の方や企業の協力を得て製茶し、生徒たちの手で袋詰めする。袋詰めしたお茶は毎年、修学旅行先で配布したり、学校近くにある東名高速道路の牧之原サービスエリアで生徒たち自身が呈茶し、販売も行う。永田校長先生は「『売り切る』という目標にしています。一般のお客様にお茶を飲んでもらい、購入してもらうために、生徒たちは自分の言葉でお茶の魅力を伝える必要があります。恥ずかしがり屋の生徒も多い中、人と積極的に関わる大切さも学んで欲しいです。そうして頑張って売り切ったときの達成感はひとしおです」と語る。この販売体験の売上は、肥料代や袋代に充てられる。
 また、6月には満を持して「お茶会」が開かれる。市から「お茶インストラクター」を招き、本格的なお茶の淹れ方を学ぶ。販売体験の売り上げの一部で和菓子も用意し、自分たちの手で摘んだお茶の味を楽しむ。牧之原中学校の生徒たちは、お茶の生産から消費者への販売、食文化として楽しむところまで、お茶の魅力を存分に体験しながら学び、育つのである。

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