「東根の大ケヤキ」と呼ばれ、国指定特別天然記念物に指定
校長 矢口 広道 先生
小高い丘から町並みを望む東根小学校は、かつての東根城の本丸跡にある。校門の前に立つと、目の前にその姿を現わすのが大ケヤキである。樹齢は1,500年以上と推定され、今も豊かな緑をたたえている。大きく枝を広げて天空をおおい、高さは約28メートル、幹周は16メートルにおよぶ。この「東根の大ケヤキ」は、日本ケヤキ番付表では東の横綱を張る日本一のケヤキで、昭和32年にはケヤキで唯一、国指定特別天然記念物として指定されている。
訪れる人が絶えない名木
総合的な学習の体験活動にも発展
大ケヤキの前に据えられた横綱。重さは約300キロもあり、子どもたちと保護者、地域の人たちが協力して完成させた。
横綱を作るために田植えからスタート。刈り取った稲が横綱の材料になる。
みんなで力を合わせて巨大な綱をより合わせる。1本が100キロ!
老樹とはいえ初夏を迎えれば萌黄色の若葉が勢いよく芽吹き、力強い生命力に胸を打たれる。日々、遠方からも訪れる人が絶えない名所・名木のため、いつでも校内に入って見ることができるように配慮されている。取材当日も「東京から帰省したので大ケヤキに会いに来ました」という卒業生が大ケヤキを見上げていた。
学校や地域のシンボル的存在でもある大ケヤキは、5年生からの総合的な学習の体験活動につながっている。毎年4月に同校地区内で繰り広げられる「大ケヤキ横綱パレード」に向けて、前年から準備が始まるのだ。
大ケヤキに飾る巨大な横綱を作るため、まず5月に稲わらを作るための田植えからスタート。泥だらけになりながら作業に励む。と同時に、改めて大ケヤキや地元について調べることで、1,500年続く命の重さや、東根のことを学ぶ機会を得ている。遠藤信也教頭によれば、「自分たちが住んでいる東根の歴史の深さや素晴らしさを、子どもたちが実感できる学習になっています」とのこと。
そして秋には稲刈りを行い、刈り取ったわらで2月にはいよいよ巨大横綱作り。保護者や住民の方々と協力しながら縄ないをして、100キロほどの大綱3本と格闘しながら重さ約300キロの横綱へと仕上げていく。
子どもたちの間に自然に受け継がれる
大ケヤキへ「行ってきます」「さようなら」
子どもたちが作った大ケヤキのパンフレット。同校には「けやきホール」があり、大ケヤキに関する資料が多数展示されている。
6年生になると「さくらんぼ環境ISO」の一環として植樹に取り組む。先生方が大ケヤキの種子を拾って芽吹かせた苗を、6年生が一人一株ずつ育て、かつて鉱毒で荒廃した足尾銅山に植樹するという活動である。日光方面への修学旅行の行程の一つとして、子どもたちは「1,500年以上生きた大ケヤキの苗なら、環境が厳しい足尾銅山でもたくましく生き延びてくれるだろう」という願いをこめて植樹している。
子どもたちの間でいつの間にか広まった伝説もあるという。「葉っぱが地面に落ちる前に3枚キャッチすると願いがかなうと言われています」と、身振り手振りで葉っぱをキャッチする様子を教えてくれる様子は、まるで大ケヤキといっしょに遊んでいるようで楽しげだ。
また、下校時に子どもたちは、大ケヤキに向かって「さようなら」とあいさつする。入学した時からの習慣で、先生方が教えたわけではなく自然に受け継がれてきた。遠足や修学旅行に出かける際や帰ってきた時にも「大ケヤキさん、行ってきます」「大ケヤキさん、ただいま」のあいさつをする。
矢口広道校長は、こうした普段の子どもたちの様子に「無意図教育」の大切さを実感しているという。
「大ケヤキをいつも身近にして過ごすことで、自然の力の神秘やたくましさを肌で感じたり、自然への畏敬の念を抱くようになったりと、子どもたち自身が感じて考える。長年の伝統や校風として、そんな無意図の教育を尊重しています」
卒業生はみな、「大ケヤキのある学校で学んだ」ということを誇りにしているという。大ケヤキが育み、受け継がれる豊かな心がまた、大ケヤキを見守っていくことにもつながっていくことだろう。