「地元の自然の海を残したい」という想いが、全国でもめずらしい学校附属水族館に
校長 石川 純一 先生
水族館館長 猪熊 優介 先生
水族館委員会担当 森屋 雅弘 先生
今でこそ、校庭の先に高速道路が通る間門小学校だが、50年ほど前は海苔の養殖が盛んな本牧の海を望んでいた。穏やかな遠浅の海で、潮干狩りや海水浴でにぎわったという。ところが、高度経済成長時代に入ると、臨海工業地帯の建設計画により海が埋め立てられ、学校と海との関わりは途絶えそうになった。
しかし、保護者や卒業生、地元の方から「子どもたちのために自然の海を残したい」という声があがり、昭和33年、学校の敷地内に全国的にもめずらしい海水水族館が誕生した。維持管理の難しさから一時は閉館に追い込まれながらも、現在は卒業生や地域の方々に支えられ、一般にも開放されている。
地元の海から南の海まで、様々な海の生き物が泳ぎ回る
"本牧の海の生きもの"と"南の海の生きもの"のエリア。25年前にここで飼育していたアカウミガメも、はく製として展示されている。
間門小学校附属海水水族館、通称『まかどシーマリンパーク』。館内は2つのエリアに分かれ、手前のエリアは、"本牧の海の生きもの"と沖縄付近の"南の海の生きもの"の水槽が設置されている。潮だまりのような浅い水槽で、ヒトデやヤドカリなどを直に触ることができるのがうれしい。
そして次のエリアでは、1メートル近くもあるサメが何匹も泳ぎ回る姿に驚く。ドチザメというおとなしい種類で、子どもたちに大人気。さらに中央には八角型をした大型の水槽があり、東京湾や本牧の海に生息するメバルやセイゴ、フグ、カゴカキダイなどが元気に回遊している。他にも、かわいいクマノミや天然記念物のミヤコタナゴが泳ぐ水槽もあり、本格的だ。
熱心に活動する憧れの"飼育員さん"「水族館委員」の子どもたち。
"何匹ものドチザメが泳ぐ「ドチザメコーナー」。説明書きは、児童の手作り。
「ミヤコタナゴ」の水槽の前で説明する副校長 水島 貴志 先生。
「文化庁の委託で、当校で飼育しているのですよ。今では200匹近くまで増えました」。
多種多様な海洋生物は見るだけでも楽しいが、ここでは自由に触れるのも特徴の一つ。そんな魚とのふれあい方や毎日の水族館の管理で、大切な役割を果たしているのが水族館委員会の子どもたちである。
5、6年生の18人で構成され、魚にさわる際の注意点を下級生に教えるのも大事な仕事。日課として、昼休みには餌やり、掃除、日誌記入、反省会を行い、魚の説明書きなども手作りしている。「もっと、みんなに来てほしい」、「水族館を大好きになってほしい」、水族館委員の子どもたちは、思いを元気よく答えてくれた。
水族館委員会の担当である森屋雅弘先生によると、委員志望の児童はとても多く、下級生にとっては憧れの存在でもあるようだ。「命を預かっている責任をよく理解し、『どうしたら、みんな来てくれるだろう』とアイディアも出し合っています。今後はポイントカードを発行して、来館ごとにポイントをためる制度も計画中です」。
また水族館の館長である猪熊優介先生も「委員会や各クラスの学習で説明書きを作り直したり、ショーケースに展示されている資料を整理したり、施設をきれいに維持したりする取り組みも熱心にしています」とのこと。こうして整備された水族館は授業でも活用され、図工、生活科、総合的な学習の時間などを通じて、全校児童が海の生き物たちを身近に感じる場となっている。
海の生き物と触れ合うことで、命の大切さを学ぶ
噴水池で行われる「タッチングプール」。
「ドチザメがザラザラしている」、「ナマコはプニュプニュだ」。あちこちから子どもたちの声があがる。
沖縄「美ら海水族館」の解説員さんの説明を熱心に聞く子どもたち。
年に一度、みんなが待ち焦がれているイベントが、初夏に開催される『タッチングプール』。中庭の噴水池に海水を張り、ドチザメ、カワハギ、ヒトデ、ナマコなどが放たれる。体験学習の一環で、海の生き物と直に触れあうことで、命の大切さを学ぶ。日頃から水族館をサポートする、卒業生や地域の方々を中心としたボランティアグループ「間門小学校アクアミューズ・フレンドリークラブ」とともに企画し、今年度は沖縄の「美ら海水族館」の協力により、南の海の生き物も展示された。
石川純一校長は、「学校だけでは維持が困難です。地域のボランティアや卒業生、保護者の皆さんから、様々な面で協力していただけるので大変助かっています」と語る。
『まかどシーマリンパーク』は、地元の海への思いが詰まった「まち」の水族館として、学校、地域、保護者、卒業生が力を合わせて守っている。